MOVE LIKE THIS―2011年

MOVE LIKE THIS(2011)

  1. Blue Tip
  2. Too Late
  3. Keep On Knocking
  4. Soon
  5. Sad Song
  6. Free
  7. Drag On Forever
  8. Take Another Look
  9. It's Only
  10. Hits Me
  11. Blue Tip(Demo) *日本盤ボーナストラック

<米国Best Buy盤にはボーナストラック3曲あり>

  • One By One(Dermo)
  • Hits Me(Demo)
  • Rocket USA(Demo)

track 1, 4, 5, 6, 10:

【プロデューサー】
ジャックナイフ・リー (Jacknife Lee)
【レコーディング】
ヴィレッジ・スタジオ(ロス)(Village Studios, LA)

track 2, 3, 7, 8, 9:

【プロデューサー】
ザ・カーズ (The Cars)
【レコーディング】
ミルブルック・サウンド・スタジオ(ニューヨーク)(Millbrook Sound Studios, NY)
【レーベル】
Hear Music

ついに…再び集まった!

~以下、長々と書き連ねております。もしよろしければお付き合いを。~

なんということでしょう。来るんですね…こういう日が。カーズが(というより、リックが) オリジナルメンバーで再結成をする日が。

解散してからの二十数年、色々ありました。リック以外あまり伝わって来ない各人の状況、ベンの膵臓ガン発病、 久々に5人が集まったインタビューでの再会、ベンの死、 リックとデイヴィッド不在のThe New Cars 、等々。

「なぜ今なの…もうちょっと前に出来なかったの…(涙)」と若干の恨み節を言いたくもなりますが、 The New Cars の時も含め、水面下でそんな話は幾度も出たり消えたりしたと思うので、こればかりは本人たちのタイミングですね。

なぜ今 集合したのか

リックが手元の楽曲をレコーディングしようとするにあたり、 「自分が思い描いているようにできるようなミュージシャンを探していたら、じゃあ僕の音楽を一番良く知っている カーズのメンバーでやればいいんじゃないかって、ふと思ったんだよね。」と本人はインタビューで語っていますし [1]、 エリオットへのインタビューを読むと「カーズでレコーディングしたらどうか」の言いだしっぺはエリオットのようですし。

ある時エリオットがリックに電話。ひとまず近況や世間話。
エリオット「今後の予定は?」リック「書き溜めたヤツをそろそろ録ろうかな」
エリオット「新しいカーズのアルバムを作るって、どう?」
リック「(しばし沈黙)…うん、面白いアイディアだね。」[2]

the cars photo(2011)

photo credit: Mark Seliger

何だかリックが参加を拒否したThe New Carsの頃と似た展開ですが、そこでリックを「昔のあれこれは水に流して、4人でやろうかな」と 思わせたのは何だったんでしょう。

やはり時間でしょうか。ライブやツアーのためのNew Carsとは違う、新しいレコードを作るという目的でしょうか。 ともかく1987年のDOOR TO DOOR から実に24年ぶりの 7作目オリジナルアルバムのリリースです。

ジャックナイフ・リーのプロデュース

リックはプロデューサーに、スノウパトロールなどを手掛けたジャックナイフ・リーを選びました。 およそ半分は彼のプロデュース。残りはバンドのプロデュースとクレジットされています。

リックはインタビューで言っています。
「ザ・カーズについては、もう自分でプロデュースなんかしたくなかった」
「自分はパフォーマンスに集中できるし、他のメンバーに対して批判とかしなくてもいいわけだからね」[3]

あぁ、DOOR TO DOOR の時は、メンバーにあれこれ口うるさく言ったんでしょうか…

ジャックナイフ・リーは大変良い仕事をしました。アルバムを、きっちりと誰もが知るカーズの音として世に送り出しました。 ライナーノーツにも彼自身カーズが大好きと書いてますから、カーズがどうあると最高かを、よく理解しているのでしょう。

変に余計なこともしていないように感じるし、バンドも編集する側も、何も気負わず意地も張らず、という雰囲気のアルバム。 それほどに、1曲目の"Blue Tip" のアタマから「うわっ!カーズのまんまだ!」と笑っちゃうくらいにカーズです。 思うにDOOR TO DOOR 以上にカーズっぽい。皮肉なもんです。

足りないもの それはベンの声

本当に、このアルバムに足りないのはベンの声。リックも言ってます。

"Greg can play bass, Elliot can play bass. We can get a bass. We can't get the voice," [4]

「ベースは出来るけど、ベンの声は誰も代われない」と。本当に残念でなりません。

外部からベース兼ベンのヴォーカルパート担当を入れることなく、レコーディングからリリース後の短いツアーまでやり切ります。 (レコーディングではグレッグとジャックナイフ・リーがベースを弾いています。ツアーではリックが全てのヴォーカルを担当。)

リリースに向けてのほとんどのインタビューで「バンドに外部から誰かを入れるのは考えられない」と語るリックに、 ちょっぴり意外さも感じつつも、 音楽的な面に関しては、リックも含めた5人からしか生まれ得ないモノに、絶大な信頼とオリジナリティを誇っているのだな、と 勝手に解釈しています。

あと挙げるなら、エリオットのギターも大変控えめです。リックは曲作りにおいてソロ用・バンド用などと区別はしてないそうですが、 元はといえばバンド再結成など特に考えていなかったリックが作り溜めた曲たちですから、 ギターソロ満載じゃなく…というリックの意向もあったかもしれません。

ものすごーく意地悪な見方をすれば、「カーズの面々をバックに従え、グレッグによるカーズ風味を盛り付けた、 リック・オケイセックのアルバム」なんて言えるかも知れません。がしかし!やはりエリオット、デイヴィッド、グレッグが カーズの音にしています!「してる」というより「カーズの音になる」んでしょうね。自然と。化学反応的に。 リックが信頼を置いている通りに。

アルバムジャケット

戻らなかったものもあれば、戻ってきたものもあり。デイヴィッドによるアートワークが戻って参りました。

アルバムジャケットは4人のシルエットと4つのカラー。どういう意図があるのかちょっとご本人に聞いてみたいです。 これまでのように美女や象徴的なモノを表ジャケットに使う選択肢もある中で、メンバー4人を使ったのは、 4人が戻ったこと、とりわけ「4人プラス誰か」じゃない「4人」だよってことをメッセージとして含んだのかな、と勝手に解釈したり。

アルバムのクレジットで Ben,your spirit was with us on this one 「ベンの心と共に」と言っているように、 ジャケットを眺めると自然とベンの姿も見る側に湧き上がってくるような気がします。 どの位置に、何色をバックに湧き上がるかは、きっと人それぞれで(親バカならぬファンバカで失礼)。 ま、デイヴィッドはそんなつもりサラサラないかも知れませんけどね。

食わず嫌いなさらずに聴いてほしい

大変長々と書き連ねましたが、とにかく聴いてみてほしい1枚です。カーズを知らない世代にも。ひとつも古くない仕上がりですから。 ベンがいないから聴きたくない、という方にも。勇気を出して是非。

ベンを通してカーズを聴き続けたなら、この「カーズ節」に耳と心が否応なしに反応するはずです。 そして実感するでしょう。「自分はベンも好きだったけど、カーズ丸ごとも好きだったんだ」と。 ええ、まさに管理人のことですけれども(笑)


■脚注■

  1. リック・オケイセック インタビュー:雑誌「rockin'on」2011年7月号、120ページ
  2. Elliot Easton's New Moves (エリオット・イーストンへのインタビュー):GUITAR PLAYERS (2012年2月8日掲載)
  3. リック・オケイセック インタビュー:雑誌「rockin'on」2011年7月号、121ページ
  4. The Cars Didn't Consider Replacing Late Bassist :GIBSON.COM (2011年5月12日掲載)

■参考資料■

  • 本作CD ライナーノーツ
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