THE CARS―1978年

THE CARS(1978) THE CARS(1978)sleeve jacket
  1. Good Times Roll
  2. My Best Friend's Girl
  3. Just What I Needed (邦題:燃える欲望)
  4. I'm In Touch With Your World (邦題:狂気のふれあい)
  5. Don't Cha Stop
  6. You're All I've Got Tonight(邦題:今夜は逃がさない)
  7. Bye Bye Love
  8. Moving In Stereo
  9. All Mixed Up
【プロデューサー】
ロイ・トーマス・ベイカー (Roy Thomas Baker)
【レーベル】
エレクトラ (Elektra/Asylum Records)
【レコーディング】
エア・スタジオ(ロンドン)(Air Studios, London)

カーズはロック・バンドです

記念すべきファーストアルバムです。

デビュー前のデモテープ状態の"Just What I Needed" をボストンのラジオ局DJが気に入って掛けたらリクエストが殺到、 結果レコード会社8社が争奪したという勲章付き。

邦題が何やら色々ついている所に時代を感じます。後の80年代中頃(ハートビート・シティ辺り)に比べると大変にソリッドな ロック・アルバムです。

カーズは一般に「ニューウェイブ」バンドと位置づけられることが常ですが、別にニューウェイブじゃないぞっ、と このアルバムを掲げて叫びたいです。

5人の化学反応

フォーク系バンドも過去にやり、ジャジーだった前身バンドをもっとロック寄りに作り変えたリックとベン。

ロカビリー系もレパートリーの範疇にするオールラウンダーなギターのエリオット。

モダン・ラヴァーズ、DMZと、ボストンの人気パンクバンドで既にキャリアを立ててきたドラムのデイヴィッド。

あらゆる楽器をこなし、アレンジ力が高く、ユーモアたっぷりの音楽的アプローチをするキーボードのグレッグ。

音楽キャリアも長い各メンバーの、一見バラバラな音楽的ルーツや嗜好が1曲ごとに融合して、 それは見事な目新しい化学反応を起こしています。だって 1作目からこんなにカッコ良くて、もうどうしましょう…。 このアルバムに永くバンドを代表する楽曲が多いのも納得です。

ちなみに"I'm In Touch With Your World" や"All Mixed Up" のラストに聴こえるサックスは、 キーボードのグレッグが吹いています。

作詞・作曲はほぼリック

カーズの楽曲のソング・ライティングは、ほぼリック・オケイセックがしています。 他のメンバーも各自ソロ作では自分が書いた曲をやっていますから、全く書かない訳ではないのでしょうが、 リックが書いた曲の種をこのメンツでアレンジして形にするのが、カーズというバンドなのだと思います。

そのため「リック・オケイセックのワンマンバンド」と言われがちです。もちろんリックがいないと成立しないのですが、 この5人でないと実現できないバンドとしての様々な魅力があるのも事実。 誰も代わることの出来ない5人。それは後の再結成などでメンバーを代えることを良しとしないリックの考え方からも感じます。

曲に関しては、リック自身に他人の書いた曲をやるつもりが元からまるっきりないようです。[1] しかしながら、ほんの幾つかはリックとグレッグの共作がありまして、8曲目の"Moving In Stereo" もそのひとつ。 最高に格好いい曲。無機質な雰囲気に、有機的なベンのヴォーカルが不思議とハマります。

アルバムのプロデューサーには、クイーンなどで有名なロイ・トーマス・ベイカー。 レコード会社エレクトラが充てたらしいですが、良い相性ではないでしょうか。でも1曲目のコーラスワークの分厚さに対し、 リックはロイに"too much(やり過ぎだよ)"と言ったと、2000年のインタビューで 語っていますね。 ロイが持ってきた、当時はまだ珍しかった40トラックのレコーダーで重ねられたアルバムのコーラスワークは、レコーディングで 最も時間が掛かった作業だったそうです[2]

ジャケットデザイン

カーズのアルバムジャケットデザインと言えばドラムのデイヴィッド・ロビンソン!

デビュー当時から、バンドロゴやステージ上のファッション含め、バンドのデザイン・コンセプトを彼がリードしてきたんですよ。 スタイルを持っている(当時の)ミュージシャンはボウイとニューヨークドールズのヨハンセンだけだと評するデイヴィッド[3]。 カーズに独自の「スタイル」を定着させたのは、彼の偉大な功績です。

ただし、ハンドルを握った女性が大写しの表ジャケットは、エレクトラのデザインチーム製です。 デイヴィッドがデザインしたものは、結局使ってもらえず勝手に差し替えられてしまったとか。 デイヴィッド本人も、あの表ジャケット写真は「(当時の自分たちのイメージにしては)変におしゃれすぎる」と あまりお気に召していないご様子。(とはいえ、このジャケットはグラミー賞の Best Album Packageにノミネートされました。)

その代わり彼のデザインは最終的にレコードを入れるインナースリーブに使われています。 (CDだとブックレットの裏表紙になってます)これも元は映画「地球が静止する日」の写真をコラージュしたものの、 著作権の許可が下りなかったりで、デイヴィッドが写真を差し替えたものが使われています[4]。 その元のデザイン画像を、 海外のデイヴィッド・ファンサイトさんが上げてくれています。

しかしバンドがエレクトラとの契約を選んだ決め手が、「ジャケットデザインをバンドの好きにさせる」だったのにねぇ。 でもその後のカーズを代表するジャケットのアートワークはデイヴィッドのお陰ですので、乞うご期待ということで。

二人のリードボーカル

念のため書いておきますと、カーズはリックとベンのツインヴォーカル・バンドです。 声が割と似てるってご意見も多く見かけますが、 カーズ初心者の方はリックとベンの声の違い、分かりますでしょうか?

リックは跳ね上がり系、繊細で、あまり歌い上げないタイプ。ベンはややハスキーで、やや甘く、大体セクシーで、良い声です。 それぞれ別の良さがある二人のヴォーカリスト。豪華なバンドです。

リックのヴォーカルはアルバム曲の1・2・4・5・6
"I'm In Touch With Your World" などはリックの歌い方が 存分に活かされている感じ。

ベンのヴォーカルは 3・7・8・9
3曲目の"Just What I Needed"はカーズの、 いやアメリカン・ロックの代表曲!


おまけ The Kars (by The Kitten Covers)

THE KARS(The Kitten Cover)

画像引用元:The Kitten Cover

有名ジャケットを猫で再現してしまう The Kitten Cover によるThe Kars です。カワイイ… でも猫の仕草が 「あちゃー」って言っているようですね。

管理人のお気に入りは Fleetwood Mac のRumours と、 猫がレコードショップにいる 写真です。スティービー、足が届いてないよ…。



■脚注■

  1. Car Trouble: An interview with Ric Ocasek :Ink 19(Troublizingリリース頃のインタビュー)より
  2. the cars live:カーズ ライヴ・イン・ブレーメンDVD 2000年バンド・インタビュー日本語訳 5ページ
  3. シンコーミュージック「Music Life」 1978年12月号 104ページ
  4. the cars live:カーズ ライヴ・イン・ブレーメンDVD 2000年バンド・インタビュー日本語訳 4ページ
inserted by FC2 system