DOOR TO DOOR―1987年

DOOR TO DOOR(1987) DOOR TO DOOR(1987) inner jacket
  1. Leave Or Stay
  2. You Are The Girl
  3. Double Trouble
  4. Fine Line
  5. Everything You Say
  6. Ta Ta Wayo Wayo
  7. Strap Me In
  8. Coming Up You
  9. Wound Up On You
  10. Go Away
  11. Door To Door
【プロデューサー】
リック・オケイセック (Ric Ocasek)
【レーベル】
エレクトラ (Elektra/Asylum Records)
【レコーディング】
エレクトリック・レディ・スタジオ(ニューヨーク)(Electric Lady Studios, NY)

リックによるプロデュース

オリジナルアルバムとしては6作目になるこの作品。 遂に外部のプロデューサーを迎えず、リック・オケイセック自身がプロデュースにつきました。

そしてこのリリースを最後に、カーズは特に発表もなく解散を選択します。 世間的にも「これでバンド解散に至った、セールスの振るわなかったアルバム」のイメージが大きいです。

ま、事実そうな訳ですが…しかしながら決して仕上がりの悪いものでも、いい曲がないアルバムでもないですよ。 ただ、リックが先頭でプロデュース出来たことで、きっと外からあれこれ言わせず 「今作りたいのはこういうモノ」を素直に作った結果、前作とは割と異なったベクトルとなり、 それがアルバムを買う側の期待とちょっとズレちゃったんでしょうね。

多様性 vs まとまりの無さ

ある意味Heartbeat City でマット・ランジと組んだことの色々な反動が出た結果という気もしますけれど…。

特に演奏のライブ感を戻して、打ち込みやキーボードだらけでなくギターやドラムを前面に出したアレンジ具合や、 デビュー当時既にあった楽曲"Leave or Stay" と"Ta Ta Wayo Wayo" の2曲をここで持って来たことなどは、 むしろリックはバンドの原点回帰すら狙っていたかも、と思うんです。

個人的な感想ですが、このアルバムを通して聴くと、どの曲も良いし好きだなと思う反面、 これまでは「クールさとおとぼけさ」「古き良きロックっぽさとスペーシーなポップさ」みたいな、相反さえする様々な要素が ひとつの曲の中で混ざり合い、その集合体がアルバムを成し、カーズらしいねという魅力を放っていたのが、 このアルバムでは「ロック系の曲」「ポップ全開な曲」「ギターで聴かせる曲」…のように、 様々な要素が混ざり合わずに、曲単位で表れているように感じます。

そのことがきっと、よく目にするこのアルバム評「アルバムとしてまとまりがない」につながってしまう。

確かに、私は収録曲の"Coming Up You" と"Door to Door" どちらも好きながら、 同じアルバムの中にあることに若干戸惑い気味は感じます。それぞれの曲は大好きなのに。

ロック好きにはHEARTBEAT CITY よりDOOR TO DOOR

the cars photo

やや否定的にはなりましたが、最初に述べたように、決して駄作ではないんです。 解散のイメージが付きまといやすいこのアルバム。是非それを取っ払って、各曲聴いてみていただきたいです。

このアルバムが一番好きという方も結構いると思います。 特にHeartbeat City はポップすぎてあんまり…、という方に"Strap Me In" や"Door To Door" "Double Trouble" 辺りはオススメです。ハードでちょいダークな、カッコいいロックチューンですよ。

アルバムジャケット

DOOR TO DOOR のアルバムジャケットですが、クレジットされていないので、 とうとう今回デイヴィッドはデザインに絡んでいないようです。

カヴァーデザインは、アルバムフォトも担当した写真家 Marco Glaviano。 バックの「にゅるーん」としたポップアートは、イタリアのアーティスト Emanuele Diliberto の作品。

この写真家 Marco Glaviano はファッション業界で多く活躍している人で、親友の一人はスーパーモデルのポーリーナ。 そうです。"Drive" のビデオに出演し、後にリックと結婚する彼女です。 1989年のふたりの結婚式でカメラマンを勤めたのも、この方だそうで。

勝手な想像ですが、このアルバムではプロデュースのみならず、アートワークに関してもリックのチカラが及んだのかな…と。 そういえばベスト盤含め7枚目にして初めて、メンバーの顔が表ジャケットに並びましたね。 ブックレット含め、各人なかなか男前な写真揃いで、そこはさすがファッション系カメラマン。 ブックレット内の、ベンがシリアスな表情でギターを持っていながらも、着てる服がCleaveland ロゴのラフさのギャップっぷりが 管理人のツボです。

解散の真相は?

バンドは1987年12月までアメリカ国内でツアーを回り、さてこのツアーが終わったらすぐ次のアルバムのレコーディングに入るか、 またちょっと活動を休むか、という話し合いの場がもたれた際にリックが解散を提案し、メンバーたちも受け入れた、 というのが後日談のインタビューなどで語られています[1]

しかし解散当時バンドからは解散宣言もその理由も特に発表されなかったので、あらゆる噂・憶測が飛び交いました。

互いにソロ作が成功したリックとベンとの不仲、曲作りを巡るリックとベンの意見の相違、Door To Doorツアーの動員の悪さ、アルバム売上の不振、 グレッグ、はたまたデイヴィッドがもうツアーに出ない宣言をした、等々…。

結局のところ、決定的な何かがあったというよりは、各ソロ含め活動を広げていく中でいつの間にか重なってきたあれやこれやが、 この頃のメンバーをややギクシャクさせた。そしてこのアルバムツアー中のギクシャクがリックに、ツアーを伴うバンド継続よりも、 曲作りやスタジオで他の人たちとアルバム作りをする日々を選ばせた、というように思います[2]。 決定していた8年ぶりの来日公演は、残念ながらこの解散によって幻となりました。 それほどに解散は突然あっさりと起こり、マスコミもファンも後から知らされて「へっ?!」となる出来事なのでした。


■脚注■

  1. 1995年リリースJUST WHAT I NEEDED:Anthology ライナーノーツ 21ページ
  2. Out of the Garage: Ric Ocasek on Reuniting the Cars (リック・オケイセックへのインタビュー) :Rolling Stone(2011年2月17日掲載)
    及び The Return of The Cars :Rolling Stone India(2011年8月25日掲載)
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